腋臭症の治療には2つの方法があります。
一つはボツリヌストキシンの注射です。ボツリヌストキシンの注射は腋下多汗症には保険適応がありますが、腋臭症には適応外ですので自費診療となります。効果の持続期間は3,4か月です。当院での費用は3万円ほどです。
もう一つは手術で、これは保険適応となります。3割負担で4万円ほどなので注射に比べるとリーズナブルですが、合併症のリスクがあります。
以下は少々専門的になりますが、当院で行っている腋臭症手術について具体的な説明になります。
わきの下の中央に一本の切開を置きます。そこから皮膚の下を剥離(掘ってゆく)してゆきます。剥離の広さははわきの下の毛が生える範囲です。(図1)
皮膚をはがし終わったら、皮膚の裏側に張り付いているアポクリン汗腺を切除してゆきます。アポクリン汗腺を除去し終わったら皮膚を元に戻して切開部を縫合して終了です。
問題は手術後に剥離した皮膚の下に血液の溜まりができやすいことです。血腫といいますが、これを放置すると剥離した皮膚が壊死してしまうことがありますので速やかに除去して出血点を見つけて止血することが必要です。
この血腫を恐れるあまり多くのクリニックでは術後の創部の圧迫をタイオーバーなどの方法でがっちり行うようです。そのため術後1週間くらい入浴などができず日常生活に多くの制限が生じます。
さらに植皮術で使われるタイオーバー法は腋臭症手術で用いては却って皮膚にダメージを与えてしまって傷跡が目立ってしまうことにつながりかねません。
腋臭症手術で術後血腫を生じるのは圧迫が不十分なことが原因ではなくて上腕回旋動脈の皮膚穿通枝を切断してしまうことにより起こります。
腋臭症手術では局所麻酔にエピネフリン入りのキシロカインを使用します。エピネフリンの作用で血管が収縮してしまって術中に動脈の枝を切断しても出血は起こらず術後にエピネフリンの効果が無くなった時点で動脈の切断部から血液が噴出して血腫を作るのです。
穿通枝の位置はほぼ決まっていていますので、その周辺の剥離を行う際には注意深く行う必要があります。動脈穿通枝は糸くずのように細いので知らずに剥離をすると切ってしまったことに気づかないことがあります。マイクロサージャリーの訓練を受けた形成外科医であればそういうトラブルは避けることができます。
当院では剥離した皮膚にダメージを与えないように術後の圧迫は必要最小限度にしています。鎖骨骨折用のクラビクルブレースを使ってわきの下の圧迫を行います。(図2)着脱が可能なこの方法では日常生活の制限はほとんどありません。入浴も基本的にドレーンを抜く術後2日目から可能です。
私自身の腋臭症手術の経験ではここ20年間で再止血を要するような血腫は生じていません。