皮膚のできものを除去する場合、当院ではメスを使用します。
肌に刃物をあてがうことは、行う方も受ける方もそれなりの覚悟が要ります。
「手術→メス→怖い→受けたくない」という図式は誰でも当然の反応でしょう。
例えばほくろの治療でレーザーを使用しますとアピールしている施設は少なからずあります。
「レーザー→ハイテク→安心」という図式が頭に浮かぶ人も多いでしょう。医療側もレーザーを使うとメスのように出血しませんし、使い慣れないと切りすぎてしまうようなリスクもないので、特に皮膚科医に好んで使う人がいます。
ここでいうレーザーとはシミ取りに使用するQスイッチレーザーではなくて炭酸ガスレーザーという、いわゆる「レーザーメス」のことです。
たしかに炭酸ガスレーザーは出血も少なく、深さも一定に切れてゆく優れた特性を持っています。内視鏡の手術などではなくてはならない医療機器です。
しかしながら、「レーザーならきれいに治る」ということは必ずしも言えることではありません。これが太田母斑の話なら、私も「レーザーできれいになりますよ」と言います。
でも、ほくろがレーザーできれいに治るとは絶対言いません。Qスイッチレーザーと炭酸ガスレーザーは全く性質の異なるレーザーなのです。炭酸ガスレーザーと皮膚との相性はよろしくありません。
ほくろは母斑細胞の集まりなので、その塊を除去しないことには治療になりません。
そのために当院ではメスで切除するのですが、その目的を炭酸ガスレーザーで代用することは可能です。出血が少ないので、術後の創部の管理も簡単です。
しかし、ちょっと考えてみてください。傷が治るのは血の通った組織だからなのです。血液内には傷を治すきっかけになる成分が血小板という細胞に含まれていて、血管が破綻するとその成分が活性化するのです。
レーザーで切ると出血しないのは切ると同時に組織を焼いてしまうからなのです。レーザーで焼かれた血管は内部の血液成分も焼けてしまっています。つまりそれは治りが遅いことにつながってゆくのです。やけどと切り傷の治る時間を比べると切り傷のほうが早いことをほとんどの人が経験しているのではないでしょうか。
一見メスは野蛮に見えますが、実際は切る組織に優しいのです。スパッと切られた組織はすぐにくっつき始めます。
よく切れる包丁で調理された料理はよりおいしく感じるのと似ている気もしますね。